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医者と体質


体型と性格は関係がありそうだ、とは多くの人が感ずることだろう。クレッチマーという今から半世紀ほど前のドイツ精神医学の大家は、そのことを詳しく研究して分厚い本にまとめた。それが彼の「体格と性格」という本だ。

 それによると、人は大雑把に分けて次の3タイプに分類できるという。

 ①「痩せ型」:分裂気質(今の用語では統合失調質)の人が多く、敏感さと鈍感さを併せ持つのが特徴。偉大な分裂気質の人は偉大さ、高潔さ、英雄的資質を示すことがあるという。人と交わるより孤独を好む傾向があり、芸術や読書、学問を好む。

 ②「肥満型」:循環気質の人が多く、共感能力や受容力が高い。人と交わる事を好む人が多く、感情面で安定している。

 ③「闘士型」:真面目で律儀。四角四面の硬い考え方の人が多い。あまり感情を表に出さないが、ときに爆発的に感情表出することがある。感情を扱うことが不得手。

 ある精神科医の本を読んだら、新潟県は分裂気質の割合が全国一高いとあった。私はいろいろな県で暮らしたが、うなずける気がする。私の敬愛する良寛さんも、おそらく分裂気質だったのではないかと思われる。

 彼の「体格と性格」の中でクレッチマーは、望ましい臨床医は循環気質の人間である、と明言している。私も全く賛成である。共感能力や受容能力を欠いた医者にかかりたい人はいないだろう。

 問題は、循環気質の人間は、人と交わることを好み、ガツガツ勉強する事を好まないので中位の成績にとどまり、最上位になることは、あってもごくわずかであることだ。彼は書く:

「我々の学校が今まで通りの教育や選抜方法を取り続けてゆくならば、将来、必然的に、競争が一層激しくなるにつれて、我々は、医師という職にとって特に豊かな才能を持つ後継者の大部分を入学試験ないしは卒業試験で失うだろう。このことは、いくら真剣に考えても、決して十分と言うことはない。」(エルンスト クレッチマー「体格と性格」)

 彼がこの文章を書いたのは、60年も前であることに注意して欲しい。そして、日本を含めて、世の受験競争は更に激化し、医師になりたい循環気質の人にとって、状況はさらに過酷になっている。

 私は医者になって30年経つが、ますますよい医師になるのに必要なのは人間性であり、受験勉強で必要となるような知識や狭い意味での頭の良さではないと確信するようになっている。精神科医療など、まさにそうだ。どちらかというと分裂気質型の私は、かなりの努力を要する、というところだ。

 国立大学の選抜方法がまた変わるようだが、小手先の改革ではどうにもならないだろう。さりとて名案がある訳ではない。偉大なるクレッチマー先生も、著作の中で代替案を明示しているわけではない。医者が儲からない職業になったら、本当になりたい人間しかならないのではないかとも思うが、開業したての私には、診療報酬を下げられるとキツイというのも本音である。


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