当院は閉院しました
2018年10月2日の開業以来、1800人弱の方に来院いただいた燕こころのクリニックですが、2024年3月23日をもちまして閉院しました。
当初は、少数の患者さんを丁寧に診るつもりで始めたクリニックでしたが、県央地域には児童精神科が少ないこともあり、予想外に多くの方を診察することになりました。
診察・治療する中で、多くの人との出会いがあり、発見があり、苦しみがあり、喜びがあり、別れがあり、私自身多くの学びがありました。
心理検査も含めて、必要な検査もできないほどに小さなクリニックでしたが、できるだけこころの通う治療を行うべく、持てる力のすべてを使って接し治療してきたつもりではあります。しかし、患者さんのすべてを満足させることができたとは全く思っていません。
精神科ほど、治療者の人間性が試される治療科は、他にないと思っています。何しろ、欠点だらけの人間同士(つまり、治療者と患者)が真剣にやり取りすることでしか、人の深い悩みというのは解決されないと思われるからです。そして、私のような欠点だらけの人間が治療するのですから、自ずと限界はある、ということになります。
物理力学と同様、人間関係の力学においても、患者の悩みに対して治療者も同じように悩む必要がある、とは、尊敬する心理学者の河合隼雄の信念であったと思います。しかしそれは、言うは安く行うは難し、ということの典型のようなものです。
言い訳はこのくらいにして…わずか6年余とはいえ、信頼を寄せていただいた患者の皆様には深く感謝いたします。そして、ちょっと変わった医者がクリニックを開いていたことを、こころのどこかにに留めておいていただけたら幸甚です。
燕こころのクリニック 院長
小林 昭
ちょっと自己紹介
初めての医者にかかるのは不安なものです。それがこころの診療科であれば、なおさらでしょう。その不安を軽くしていただくため、自己紹介を少しだけ。
《興味のある学問分野》
様々な分野に興味がありますが、博士論文のテーマだった自尊感情(self-esteem)は、今も一番興味のある分野です。日本の子どもたちの自尊感情は世界中でも低い方だと言われます。そして、精神疾患と自尊感情は強く結びついているのです。
《精神科医になった理由》
もともと私は、「頼れる親父」的な町医者になるのが夢でした。診療所長を長く務めたこともあります。しかし、理想としていたどっしりとした医者からは程遠く、自分の中の弱さと向き合う毎日でした。
そんな時に子育てが重なり、今の子どもたちが置かれている厳しい状況を知りました。彼らのこころの苦しみを少しでもやわらげられる仕事を、ということで北海道立緑が丘病院の児童精神科病棟などで診療に携わり、燕で開業しました。
《The Long and Winding Road》
私自身、決して平坦ではない、むしろ長く曲がりくねったでこぼこ道を歩んできました。しかし、そんな道草ばかりのような人生だったからこそ得られたことも多かったと思います。
「苦しみはいつか報われる」と、私は思っています。むしろ、苦しまないと大切なものは得られない、とすら考えています。
苦しんでいる時に、「この苦しみをどのようにしたら将来活かせるか」と考えるのは、苦痛を和らげるためにも、また「将来活かせる形で苦しみを苦しむ」ためにも、必要なことだと思います。
実際に苦しんでいる時は、なかなかこころの余裕がないので、その苦しみが後で生きてくることを信じられない人が多いようです。しかし治療を通して考え直し、回復していく方も多く、そのように回復してゆく患者さんを助けるのが精神科治療の醍醐味です。