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ソリッドな生き方

更新日:2019年8月15日


 硬質であることを英語で「ソリッド」という。最近では、パソコンではハードディスクの代わりにSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)が使われているので、日本でも耳にする機会も増えた。

 「ソリッド」は、感覚的には、剛性を高めるためにアルミの一枚板で作られたようなパソコンという印象の言葉だ。プラスチックな感じのない、カッチリと中身の詰まった頼りがいのある感じ、と言ったらいいか。

 もうふた昔以上前の話。米国の大学院に留学していた時、ある女子学生(と言っても、年齢は20台後半だったと思う)が仲間に「私はソリッドな生き方をすることに決めた」と宣言しているのを小耳に挟んだ。おそらく、「ソリッド」という言葉が、彼女にはおよそ似つかわしくないものだったからだろう、その時の印象が今も強く記憶に残っている。

 見るからにラテン系の顔をしていた彼女は、とても気分の不安定な激しい人だった。いつも大きな声で早口でまくし立てて、それでも足らなくて、大きなゼスチャーで自分の感情を発散させていた。そんな人が、「ソリッド」に生きたい、と真顔で言っていたのだ。

 「ソリッド」に似た言葉に「ハード」という言葉がある。どちらも「固い」という意味で使うが、ニュアンスは異なる。「ハードワーカー」というと、体力に物を言わせてやたらに働くイメージだが、「ソリッドワーカー」という言葉は聞いたことがない。「ソリッド」の方が理知的な、よりコントロールされた、堅実な感じなのだろう。

 患者さんを診ていると、「ソリッド」さが足らないということを思わされることがある。感情の波に揺さぶられて、生活の基本、すなわち仕事や学業、生活のリズムまで崩れてくる、という感じだろうか。そうするとさらに感情の振幅が大きくなるので、生活はさらに大変になることが多い。

 などと偉そうに言っている私自身も、感情の波をなかなか抑えることができない。何歳になっても、なかなか安定しない。人に偉そうに物を申しながら、内実が伴っていないことが情けない。日々、荒ぶる感情をなだめつつ、「ソリッド」な生活に憧れながら過ごしている。二十数年前の、あの彼女ように…。


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